ブログ 額装家の12ヶ月

保存額装の必要性 その2

 

さて、保存額装についての第二話。
今回はマットボードについて。

 

版画や水彩画、写真など、紙作品の額装に用いられる、厚さ2mm程の台紙です、斜めの切り口でカットし、抜いた窓から作品を鑑賞するものです。

単に「マット」とも呼ばれるこの部材は、視覚効果、保存性に大きく影響するものです。

保存の面でのマットの役割ですが、先ずダストカバー(ガラス、アクリル板)と作品の間に空間を設けるという事が挙げられます。
第一は、前回の記事の通り、結露による作品のダメージを防ぐ事。

 

次に作品とダストカバーの貼り付きを防ぐ効果。
結露とも関係がある事なのですが、写真の印画紙などは、つるつるした面に密着しやすい性質があります。
水彩絵具や、日本画など膠を用いた作品も、絵具を固着させる成分が水分でふやけ、色が滲んだり、ダストカバーに貼り付きます。

 

そして、特に保存額装用のマットにおいては作品本紙の酸化・劣化を防ぐ機能が備えられています。
まず、大気中の硫化ガスや、額の裏板などから発生する酸性のガスを吸着する機能があります。

また、一般に無酸性紙、中性紙と呼ばれている紙類では作品本紙の酸化を防げません。保存額装用(アーカイバル)のマットのみがこれを防ぐことが出来ます。

 

通常の中性紙マットと、保存額装用のマット。
じつはそれ程価格に違いははありません。
しかし、その効果の差は大きなものがあります。

 

額装を注文する時に少しだけ気にかけて下さい。

 

マットの視覚効果についてはまた改めて。
保存額装の話、次回はバックボード(裏板)について。

東京 額装工房 アトリエ モン ラトン

保存額装の必要性 その1

 

先日、30~40年ほど前の銅版画を額装。
作者は難波田龍起氏。
 

美術界に於いて重要な作家ですから、少しは気を使った額装がされていたかと思いきや、フレームの中を開けて愕然。

 

先ずはガラスの使用。
かなり紫外線で紙が黄変しています!。
でも、これは仕方の無いことかもしれません…。
当時はUVカット効果のあるガラスやアクリル板などは出回っていませんでした。
出来ることといえば、せいぜい直射日光を避ける事ぐらい…。

 

また、ガラスの短所は湿気が結露しやすいことです。
額装品の保存を避けるべきは、湿度の高い場所だけでなく、気温変化の著しい場所。
額の中の暖まった空気は、空気よりも温度変化をしやすいガラスによって急に冷やされ、結露します。
この水分はカビが生える元凶となり、作品にダメージを与えます。
シミが浮き出る原因でもありますし、ガラスが白っぽく曇って汚れる場合もあります。

 

さて最近は、低反射+UVカット機能のガラスやアクリルが出回るようになりました。
美術館レベルでは透明度、UVカット率がほぼ100%の製品が使われます。
但し、ちょっと高額です。

一般的なアクリル製品でも90%ほど紫外線をカットできますし、これならそれ程割高ではありません。
このような製品なら気軽に使えそうです。

 

10年、20年後の作品のコンディションに、ちょっと気をかけてみて下さい。

 

ガラスの話だけでもだいぶ長くなったので、残りは次回に。

保存額装 アトリエ モン ラトン

新作レディーメイド・フレーム 9

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Cat:

 

 今回ご紹介するのは、ミラーつきのフレーム
[SU-012-01]です。

 このフレームの最大の特徴は棹の断面形状にあります。
 まず幅の広い平面が目に入ります。
この部分に自由なデザインを施せるようにしました。
 今回は本銀箔をウォーターギルディングで施しました。その上に線刻で文様描いています。
全体的な箔の仕上がりは、マット(艶消し)な調子で柔らかい印象です。

SU-012-01corner
 このメインの装飾部分を引き立たせるために、ちょっとした工夫がされています。平たい部分の両脇、一番内側と、一番外側の黒く塗られた部分ですが、普通このような部分は垂直にデザインされることが多く見られます。
 しかし、そうしてしまうと、形状が単純すぎて物としての存在感というか、奥行きのようなものが感じられなくなります。
 そこで、この両脇を、斜めにして、側面をわざと見せるようにしました。
このちょっとした工夫で、額装全体が懐の深い豊かなものに感じられます。

 シルバー/ブラックのモノクロームな色調で仕上げてありますから、写真の額装などもよいかもしれませんが、今回は鏡を入れてみました。
 シルバーの存在感は、お部屋をきりっとした印象に変えてくれるでしょう。


フレームサイズは外寸で827×630mm(油絵15M)/¥117,180-。
別途ミラーの代金は、「面取り無し」/¥6,500-、
「面取り24mm巾」/¥11,000-。
もちろん特注サイズでの製作も承っております。


お問い合わせは「[SU-012-01]の件」で、こちらまで。

画材 3  ボローニャ石膏 その2

 

今日は、季節外れの南風。
陽気に誘われたのか、近所のドッグランは満員、暖かさに犬たちも喜んでいるかのようです。

さて、きのうに続き「ボローニャ石膏」の話です。
ボロニア石膏

まず、膠液の中にボローニャ石膏を投入します。
お菓子をつくるときと同様に、石膏の粉を篩にかけて、膠液に馴染み易くしてやります。

程よい量を投入したら、5分ほど放置して石膏が落ち着くのを待ちます。
重要なことを書き忘れていましたが、膠液は60℃以上で長時間加熱すると接着力が弱まります。
ですから、なるべく低い温度で扱いますが、石膏を入れると液温がさがるので、ぬるめに湯煎しておきます。
泡立たないように気をつけながら撹拌したら、いよいよ石膏を塗る作業です。

石膏下地の塗装は少ない場合でも4回、多い場合は十数回重ねます。
どのような雰囲気の額縁に仕上げるかでその回数が変わります。

すっきりした印象に仕上げるときは、回数を少なくします。
土台となる木地の断面形状がはっきり出ますから、軽やかでシャープ。

反対に、塗る回数を重ねるほどに、こっくりと豊かな感じになります。
物理的に多くの量を塗られた下地は、見た目も重厚。

さらに、塗るときの刷毛さばきでも、印象はがらりと変わります。
単に平たく塗ったとき、わざと石膏の多いところと少ないところを作ったとき、細かい凹凸をつけて塗るとき…、この塗り方の選択で、最終的なフレームの印象がほとんど決められます。
ですから、作業の初めから、仕上がりをはっきりとイメージして進めなければいけません。
でも、重要な工程ですが、仕事の中で一番楽しい時間でもあります。

塗り終わった下地は、一晩寝かせて乾燥させたあとに「研ぎ出しを」されます。
紙やすりで研磨するのですが、3種類ほどヤスリの粗さを変えて行います。
粗い目から、だんだん細かい目に変えます、ここでも最終的な仕上がりの肌合いを考えて紙ヤスリの番手を選択します。

研ぎ上がったら細かい粉を払って次の工程へ。
金箔を貼るための「箔下との粉」の塗装です。



額装に関するお問い合わせは、こちらまで
オーダーメイド・フレームの額装工房アトリエ・モン・ラトン

画材 2  ボロニア石膏 その1

 

暖かく穏やかな一日でした。
午後からは一人でアトリエでの作業、CDのボリュームをちょっと大きくして音楽三昧。
最近のお気に入りは、
Lorenz Duftschmid  Antoine Forqueray  Pieces de Viole
やっと手に入れたドゥフトシュミットの、
[フォルクレ 「ヴィオールのための作品全集」]

フォルクレのヴィオールでの全曲集は、このほかにパンドルフォ盤がありますが、断然こっちが好みです。
中でも第5組曲。レオンハルト+クイケン兄弟の残した名演奏とはまた一味違う心地よい重さが、濃密な日没時を演出します。


さて、今日の仕事は、前日に下膠を塗った木地の上に、石膏下地を塗り重ねる作業。
yhoo!での旧額装家12ヵ月と似たような内容ですがご容赦を。

アトリエ・モン・ラトンでは膠液にボロニア石膏を混ぜたものを使っています。
ボロニア石膏以外にも下地用の白色顔料は、ソチーレ、(工業的な)炭酸カルシウム類、白亜(フランスのムードンなど)、胡粉(牡蠣や帆立貝などの貝殻の粉末。描画用には蛤などの高級品もある)などがあります。

日本で一番使用されているのは牡蠣や帆立の胡粉ではないでしょうか。
昔から多くの工芸類の下地材として使われてきましたから、当然額縁の制作にも用いられました。
これには原料の入手のし易さが大きく関わっていると思います。
また、日本で作られていた膠との相性も良かったようです。


それでは何故、アトリエ・モン・ラトンは容易に手に入り、コストも抑えられる胡粉を使わないか?
それは、仕上がりの「硬さ」が好みに合わないからです。
物としての「硬さ」は、見た目にも「硬さ」となって現れます。
どうもこの印象が好きではありません。

一方、ボロニア石膏ですが、こちらは仕上がりが「柔らかい」です。
でも。スポンジのようにフワフワ柔らかいわけではありませんよ。
ボロニア石膏は、爪で叩いたぐらいでは別に傷はつきませんが、触った痕跡が手のぬくもりとして、味わいが記録されるような印象です。
時間の経過を受け止めてくれるような、おおらかさを感じます。

ところが、胡粉は爪で叩いてもカチッと跳ね返す感じ。
でも、硬すぎて、ボロッと脆いような気にさせます。


ボロニア石膏には、もう一つ大きな特徴があります。
それは、顔料の粒子の大きさにばらつきがあることです。

粒がそろった下地は、一見きれいなようですが、箔のメノウ磨きのときに剥離しやすくなります、粒子と粒子の絡み合いがないからです。
ソチーレや胡粉、工業的な炭酸カルシウム類にはこのようなことが言えます。
粒子の大きさのばらつきは、メノウで磨く、つまり表面を圧迫して滑らかにするわけですが、粒子と粒子の間にもともと隙間があるので、この力をうまく吸収し、しっとり艶やかな仕上がりを得ることができます。

……この、下地の話。まだまだ長くなりそうです。
今日はこの辺で。


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